寒蘭の多水栽培

この栽培は、福岡のN氏が提唱する通常の寒蘭栽培とは、かなり異なる栽培法です。

一般に寒蘭の用土は、市販されている「東洋蘭の土」を使う人が多いと思います。焼き赤玉土・硬質鹿沼土・薩摩土(軽石)・ボラ土などが配合された用土です。自分で配合する人も、前述の火山軽石系の用土が中心です。鉢の底から大粒・中粒・小粒とだんだん小さい用土を使います。小粒といっても、米粒くらいの大きさはあります。水はけがよく、乾きやすい用土です。水は、1週間に1〜2回、鉢の用土の3分の1が乾いたらやります。人により多少の違いはありますが、これが、寒蘭のみならず東洋蘭を育てる"常識"です。
ところが、N氏は、草花用の培養土を使い水を用土が乾かないように、ジャブジャブ水を与えると言うのです。私も最初話を聞いたとき、「度素人だな」と思っていたのですが、N氏は、寒蘭の見識が深く栽培年数も15年以上と並みの素人ではありませんし、N氏の友人は寒蘭で生計をたてている人です。
以下はN氏からのメールの一部です。

「私の基本は先日から話していますとおり「保水とその水の入れ替え」をうまくやっていくことですので
何れの用土でも問題なく良く育つと思います。強いて言うならば 水苔 単用が最も難しいかもしれませんね。
もしも水苔が死んだ場合はそれ自体から腐敗が起こることがあるためです。しかし、むかし園芸店などで根巻きの苗をビニールに包んでほったらかしてあるのを良く見ていたんですが水さえやればこれが非常に良く育っているんですね。ところがこれを大事に育てようとしてボラに植え作をかけた?(水を切らせた)瞬間からいきなり作落ちするのが最も多いパターンです。ボラも鹿沼も良い用土ですよ。私も使ったことはありますし
良く育ちます。問題は乾燥しやすいことだけなのです。したがって
これらならば1日1回は必ず(夏ならば3回くらい)水をやらないと
どうしても根から痛んでしまうのです。また冬の乾燥期も極めて
危険なのです。
私は先日も書きましたが、決して自分の培養法だけが
正しいなどとは思っていませんし、他人に強制するような
ことはしません。今まで多くの方に 培養についての話を
してきましたが理解できる(共感してもらえる)人は殆ど
いません。したがって最近は話をしたり わざわざ説明したり
は全くしなくなってしまっていました。私の棚を誰かに見せたり
いわんや 自慢するようなことも決してありません。
ただ はっきり言える事は 生き生きした植物かどうかは
一目瞭然だと言うことです。
問題は「乾燥しすぎる」ことなのです。
だれしも蘭には薄い肥料しかやりませんので、なんとなく
肥料に対して弱いイメージを持っていると思います。しかし
高濃度の肥料が悪い理由は、乾燥時に濃縮していわゆる
塩害みたいなことになって根が部分的に死んでしまうことと
同じなのです。
そうすると必ずそこから腐って根は全滅・芋は真っ黒・・・・という
最悪の結果になります。一般の方の蘭は見た目が仮に少々
きれいでも少なからずこの状態に近いものがたいへん多いのです。
つまりどんなに薄い肥料でも、ボラ土などの場合乾燥しやすく
根の表面と 芋の表面で異常に塩濃度が上がり、ナメクジに
塩をかけて殺すような状況に何度もあわせているわけです。
この場合太い根の表面のみが黒くなりだんだん内側へ進行して
行きます。最後は真っ黒です。また、このような場合は表に
現われなくても根と芋の付け根のあたりはかならずといって
よいほど病気になっています。根落ちも起こるわけです。
このような苗をいきなり培養土に植えて水をやると ご心配の
通り あっという間に腐ってしまうでしょう。そして「水を
やりすぎて失敗した。水はやってはいけない!」ということに
なり、またもや 上記の乾燥を繰り返してしまいます。本当に
悪かったのは病気で弱っている苗の方です。栽培者はこれを
見抜き 救って元気にしてあげなければならない訳です。
私は他人から入手した苗は必ず”手術”を施してから
植え込みます。時には根を全部落とすことさえありますが
病気の根をもったいないなどと思ってはなりません。病気を
広げるだけで盆栽のようには回復は出来ないのです。元気な
根であれば途中をズバリ と切り落としても また伸長を
始めますので、長すぎる根などははさみで切り落とすことも
ありますが他の人はこの行為は残酷に写る様です。
もしもボラを使うなら、ひと時も乾燥しないように常時水を
やるべきです。実際にそうしたこともあります。(といっても
冬でも毎日水をやる、夏は朝・夕やる程度です。これがたいへん
なので乾燥しにくい用土へと移行していくわけです)
本当に元気な蘭の根は真っ白で真冬でも成長し続けます。
たいていの場合冬に乾燥させてしまい、最悪の場合は
そのときに枯れてしまいますが、生き残ればこれは 結局は
湿度の高い梅雨や夏に根腐れとして顕著に現われ やはり
湿度や水が悪いのでは・・・・と思ってしまいます。
鹿児島の山採りの現場では、もともととてもきれいな根を
しています。地植えしている方は庭でも裏山でも意外と元気
に育っているのに、大事にボラに植え棚に置いている人に
限って根は真っ黒です。たいてい 本の通りに水をあまり
やっていないのです。 昔は水苔単用でも上手に育てる
人や、おがくず使用でとても立派な作の人などもいたのです
がね。これらの人は基本的な考えが本と異なっているのです。

浸透圧の関係で肥料は薄いもののほうが吸収しやすいのは
事実ですが それでも乾燥は大敵というのが基本的な考えです。
そうなると薄い肥料をどんどんかける(水でも勿論結構ですが)
というのがもっとも効果的で、これはいわゆる水耕栽培に近い
考えです。
蘭は水と養分を求める植物なのです。空気(酸素)も必要では
ありますが、本当にそうであるなら寒天培地の蘭はもぐって
死んでしまうでしょう。しかし病気さえなければ水ばかりの寒天中で
でもあんなに元気に育つのですから・・・・

ただし、確かに用土が詰まってしまい水が流れずよどんでしまうと
そこから病気になることはあります。

ちなみに上記のような理由で私にとってはプラ鉢に穴をあける
必要などは全く感じていないわけです。

とにかく乾燥とそれによる塩濃度の上昇が最も
危険です。そういった理由から肥料は液肥(ハイポ)であれば
5000−10000倍と薄いものを 乾燥しないように どんどん
かける(肥料と水を交互に、または 肥料は時々の方がより
安全) などがお勧めです。 」

羽蝶蘭も昔は、乾燥気味栽培すると言われていたのが今では多水栽培が主流になりつつあります。寒蘭も試してみる価値はありそうですね。